藤宮史の二番煎じなアートな気分

手軽で笑える現代美術的なことをやって、不定期に掲載します。

第14回 与太記事スクラップ

                                                               はじめに

 ここ15年ほどの私の創作活動は、猫の木版画制作や木版漫画制作がおもな仕事になっていた。しかし、これからは現代美術的な匂いのする「藤宮史の二番煎じなアートな気分」もときどきやりながら版画制作もやってゆきたいと思う。

        ✤✤✤ 今回の提案 ✤✤✤

 今回のアートは、新聞記事を模した記事を印刷してみようと思う。しかも記事の内容は架空の、超常現象のような、ちょっと他では見かけない物にして遊んでみたい。(ゆくゆくはスクラップブック一杯に与太記事を貼りつけてみたい) 以前、藤宮新聞をやって取材範囲が狭くて頓挫しているので、今回は大上段に構えずに、幅広い取材対象にして単発で記事を作ってゆきたいと思う。

 ■実際につくってみる

 まずは記事の下書きとして、コピー用紙に鉛筆で草案と、印刷する新聞記事のレイアウトを描いてみる。たのしい割に費用が掛らずに私向きである。

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▲コピー用紙の上部にレイアウト、下部に記事の草案がある。

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▲昔ながらの切り貼りで版下製作をしている。

 

 写真はデジタルカメラを使い、この記事のロケハンは近所の暗渠でおこなった。

 出来上がった版下をリソグラフ印刷機にかけてワラ半紙に印刷。(印刷費用は4種類の記事を作って計100円である)

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▲刷り上がった新聞記事をスクラップする要領でハサミで切ってゆく。

 

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▲本物の新聞のように折り目をつけ、手で揉んで皺をつけると本物の新聞記事と判別できづらい仕上がりになった。

〔記事全文〕一月十一日、早朝に面妖な者の姿が目撃された。杉並区下井草一丁目に在住の杉原涼子さん(43)によると、「朝の五時半頃にゴミ出しにゆくと、暗渠になっている路地のところを笠を被った小柄の着物姿のオジさんが手桶を片手に持って、こちらに歩いてくるな、と思いました。ええ、最初はオジさんだと思っていましたが、近づいてくると、口に魚をくわえていて、口許も人のようではなしに犬のように尖っていて顔一面に短い毛が生えているようでした。ええ、あれは人間ではありません。怖い、という気持ちもありましたが、咄嗟にスマホのカメラで撮影しました。でも、写真を撮ると、すぐに、フッと目のまえで消えてしまって・・・」と、戸惑いながらも当時の様子を克明に話してくれた。日本妖怪研究所所長 山岸精二氏によると、これは狐狸、貂と共に人を化かすと言われる獺の妖怪ではないかということである。

 

 上記の要領で、次々と与太記事を作ってゆくと、

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▲このように、東京では妖怪が出現していることになり、

 

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 じゃんじゃん妖怪が跋扈している東京の杉並区である。

 

 そして、とうとう、

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 ネッシーが登場である。

 特撮写真のような仕上がりであるが、これはフォトショップで画像を合成して作った。

 上記の記事はすべてフォトショップの画像処理であるが、ネッシーは金属製の置物(長さ20センチ程)を撮影し公園の画像に合成した。妖怪ものは、妖怪のフィギュア(5センチ~8センチ程)を使用して撮影し、合成した。

〔記事全文〕十四日、早朝の妙正寺公園(杉並区)の池にネッシーを連想させる怪獣が出現した。公園内でラジオ体操のグループに参加していた中沢君子さん(72)の話では「怪獣は、はじめに池の中に潜った影で現れて、それから頭を出し、長い首を伸ばして辺りを窺って、それから背中を出した格好になった。しかし、怪獣が現れたのに、怪獣のまわりにいた水鳥たちは怪獣に気がつかないようすで静かに水に浮かんで遊んでいた。そして、怪獣はゆっくりと首を動かして、ふっ、と忽然と姿がきえてしまった」という。この怪獣の出現の目撃者は複数の方がいて各々携帯電話のカメラで撮影をしていた。未確認生物に詳しい全日本超常現象研究所所長の竹本総一郎氏によると、この怪獣は恐竜時代に栄えた大型水棲爬虫類である首長竜プレシオサウルスに酷似しており、その恐竜がなんらかの超常現象で姿を現し、そして、消えたのではないか、とのことであった。尚、恐竜の体長は約5メートル、イカなどの軟体動物を捕食していたと考えられている。

 

 ・・・しかし、ここで記事の出来栄え(レイアウトなど)が気になりだした。もうすこし、良いものが出来るのではと思い、再度作ってみた。

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▲大見出しを工夫してスクリーントーンを久しぶりで貼った。また妖怪の画像を鮮明にして、記事の文字の字間、行間を詰めて本物の新聞の体裁と同じにしてみた。

 

〔記事全文〕一月四日、午後三時頃、突如、東京都杉並区の阿佐ヶ谷上空に未確認の浮遊物体が雷の音のような、または貨物列車が走り抜ける音を間近で聞くような音を出しながら現れ、当地の住民、新井佳子(51)さんら複数の住民が目撃した。浮遊物体は若干左右に揺れていたが約一時間ほど上空に留まって、その後、数秒間のうちに音もなく姿が薄く消えていったという。尚、新井さんが携帯電話のカメラで撮影した画像を国立超科学研究所所長斎藤正彦氏に鑑定を依頼した結果、浮遊物体はプラズマや火球などではなく江戸時代の文献「諸国百物語 巻一」にある片輪車に酷似しているとのことであった。怪談集〔諸国百物語〕一六七七年(延宝五年)全5巻、各20話、全百話の巻一には「京東洞院かたわ車の事」の記述があり、京都の東洞院通りには毎晩のように牛車の片輪に凄まじい形相の男の顔が貼りついて転がって人人を恐れさせたという。

 

 上に掲載してある記事と見比べてください。随分よくなったと思います。

 

 そして、また、

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▲本物に新聞に近づけようと皺を入れたが、スキャナーの精度が良くて皺をひろいすぎである。

 

この記事も作り替えてみた。大まかなところは一緒だが、やはり文字の字間行間を詰めて、見出しの文字も大き目のもの、また大ネズミの画像もより鮮明なものに替えてみた。

 

〔記事全文〕一月六日、午前六時ごろ、四日に続き、今度は着物姿の人の背丈ほどもある大ネズミを都内杉並区阿佐ヶ谷北二丁目の暁マンションの屋上で、当マンション在住の木村重徳さん(72)が発見した。大ネズミはマンションの屋上のへりを約10分間ほど駈けるように身軽に移動してゆき、やがて空中に飛び上がった恰好で姿が消えていったという。日本妖怪研究所所長 岸本精二氏によると、これは妖怪画集「画図百鬼夜行鳥山石燕著の「鉄鼠(てっそ)」に似ているとのことで、また他に、同種異名として「平家物語」の「延慶本」では「頼豪鼠(らいごうねずみ)」、また狂歌絵本「狂歌百物語」では「三井寺鼠(みいでらねずみ)」と言うとのことである。

 

 それから、趣向をかえて、新しい記事をひとつ、

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「タイムマシン製造開始」という記事である。事実であれば世界的なニュースであるが、これは架空の記事である。

 

〔記事全文〕16日、〇州原子核研究機構のマイケル・マクレガー教授(宇宙物理学)率いるグループがタイムトラベルに必要なポアンカレM理論を完成させタイムマシンの試作機製造に着手した。試作機の完成は二〇二一年の予定。■タイムマシン/二〇〇〇年にインターネット上に現れた自称タイムトラベラーのジョン・〇〇ターが残していったとされる亜空間理論に関する資料により飛躍的に時間遡航術が発展。二〇〇八年、同教授グループによりタイムトラベル理論が完成した。

 

 また、もうひとつ掲載すると、

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 なんと、こんどは警察官2名が何者かによって白昼蒸発させられるという怪奇事件が発生した。きっと、何者かは未来人で、特殊な器具によって警察官は転送されてしまった。(これは虚構です)

 

〔記事全文〕16日、高円寺南4丁目の交差点で人身事故処理にあたっていた高村雅晴巡査長(36)と笹山昭人巡査(24)が、事故 で負傷して倒れていた男性に光線のようなものを浴びせられて、群衆の見守るなか忽然と消えた。なお、その現場を目撃した通行人たちの証言によると「 男は、スマートフォンのような小さな器具を警察官たちに向け、次の瞬間、警察官たちは音もなく、軀の影が薄くなって消えた 」という。また、男の行方については、気がつくと姿が見えなくなった、とのことである。(これは虚構です)

 

 そして、いよいよ今度は、

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UFO(未確認飛行物体)の登場である。やたらと杉並区ばかりに妖怪やらネッシーやらが出現しているが、ただ単に筆者が杉並区在住だからである。

 

  それから、ようやくコクヨのスクラップブックを阿佐ヶ谷の文房具屋で調達できた。A3サイズの物が税込820円である。A3サイズだと大きいような気もするが、実際、新聞記事を貼るにはこのサイズが必要である。

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▲(株)トンボ鉛筆のスティック糊「シワなしPITS」を使うと快適に記事を貼ることができる。

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 まだまだスクラップは始めたばかりなのでページがスカスカで淋しいが、一年間順調に作ってゆけば充実するだろう。

 

 この第14回のブログは1月15日掲載の体裁であるが、実際はその後日にもポロポロと掲載している。この下の記事も先程(22日午後1時頃)印刷してきたので載せてみたい。

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「地底人の来訪はじまる」である。地球は、日本はどんなことになっているのやら、である。あまりに荒唐無稽すぎるが、たのしいので、このままゆく。

 

〔記事全文〕20日早朝、都内杉並区の馬橋公園内の積雪の下より地底人と思われる複数の異形の者たちを、公園内を散歩していた男性(71)が目撃した。男性の証言によると「 白く光る雪の上を 30センチぐらいの黒いものが雪の下から次つぎに這いあがってくるじゃないですか、驚いたのなんのって、もう、夢中で携帯電話のカメラで撮影しましたが、それらは、10も20も出てきて、そして、一列になって雪の上を林の奥に消えてゆきました 」という。なお、地底人に詳しい日本地底科学研究所所長 坪井忠輔氏によると、今回目撃されたタイプの地底人はAⅡ型の比較的地上から浅いところに分布している者たちで、温厚な性格、人間にたいして友好的とのことである。また、従来から指摘されてきた地底人の難民認定の難しさにたいして政府の対応が注目される。

 

・・・それから、また、これは与太記事らしくないが、こんなものをひとつ。

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 ありそうで無かったので、自分で作ってみた。新聞の書籍広告のようにしてみた。

・・・そして、今度は、

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 新聞の作家紹介欄「今週の人」コーナーに掲載である。スクラップブックに貼るのに必要なので作ってみた。

 

 

藤宮史 (フジミヤ フヒト)

1964年生まれ 版画家、漫画家

 平成17年(2005年)第7回アックスマンガ新人賞を受賞する。また第12回、13回、17回の文化庁メディア芸術祭において審査委員会推薦作品に選出される。1999年から2002年の三年間、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の助手をつとめる。