第3回 スプラッター・ランチ
はじめに
ここ15年ほどの私の創作活動は、猫の木版画制作や木版漫画制作がおもな仕事になっていた。しかし、これからは現代美術的な匂いのする「藤宮史の二番煎じなアートな気分」もときどきやりながら版画制作もやってゆきたいと思う。
✤✤✤ 今回の提案 ✤✤✤
今回は趣向をがらりと変えてゆきたい。気持ちの悪いもの、怖いもの、トラウマになるのを気にする方はご覧にならないほうがいいでしょう。
人類における料理の起源は古く、今から約12.5万年前まで遡るとされている。最初は狩りをして得た動物の肉を直火にかけて焼いてから食べる簡単な料理方法であった。
動物を料理して食べると云うことは、動物を殺すことであり、命を奪って食べることであった。それがとくに端的に表れるのが原始時代であり、調理場である焚き火の脇では動物の解体作業が流血のなかすすめられる。
■スプラッター・ランチを体験してみる
スプラッターといっても現代の食卓では、猟奇、恐怖の色合いはまるっきり脱色され完全に無害化されている。ひとびとは己の行為の残虐性をまったく考慮することなく微笑みのなか食事をつづけている。
つまり、「スプラッター・ランチ」と云うのは「普段の食事」と云うことを視点をかえてみる試みで、いつもどおりの食事をするだけで充分猟奇的であると云うことである。
フライド・チキン
わが家の食卓でもある炬燵のうえで、今日も血の惨劇が繰りひろげられている。今夜の犠牲者は鶏。いまでも耳の奥で鶏の断末魔の叫び声がきこえてくる錯覚がある。(しかし、香ばしく揚がったチキンを舌にのせると、それはもう美味とカラダが即座に反応してしまう)
事件は、食卓の上で起きている
鶏惨殺死体遺棄事件発生 !! 事件現場に急行する。
▲黒猫警部、事件現場に颯爽と登場。
▲夕食のあとの事件現場である。
なんと言っても被害者の鶏の身の上にとっては、命を奪われ、喰われる、と云う衝撃的事件である。捜査員を緊急配備、規制線を張って現場検証をする。本件は、犯人の判っている事件で捜査はしやすいが、これはなかなか立件が難しそうである。世にもおぞましい猟奇事件の犯人確保に全力をあげている。
▲加害者の物と思われる証拠の鑑定が急がれる。
▲捜査は難航して、現場の空気は張りつめていった。黒猫警部は捜査員に的確な指示をだしてゆく。
▲犯人は被害者の肉を歯でむしりとり、剥き出しになった骨を現場に遺棄している。見るも無残な被害者の姿である。
▲規制線の内側に惨殺事件現場はある。(おいしく鶏は食べられてしまったのである)
緊急事態発生 !!
今度の被害者は、アメリカ豚の雌(推定2歳)。
豚のしょうが焼き
雌豚惨殺死体遺棄事件発生。今回は無惨にも足のもも肉を切り刻まれ、現場に遺棄されると云う事件が発生した。 被害者は年若い女性(雌)で、その苦しさ、無念さはいかばかりであったか、察するにあまりある。
▲事件現場は騒然とした空気に包まれていった。
惨殺死体遺棄現場に到着。被害者に黙祷を捧げ、さっそく現場検証にかかる。
被害者は、鋭利な刃物により臀部の肉を薄く切り取られ、死因は出血多量によるショック死と思われる。
▲黒猫警部も言葉を失った。
▲まれにみる猟奇殺害事件である。
▲規制線が張られ事件現場には沈鬱な空気がながれる。
凄惨な事件現場をよこ目に楽しく「豚のしょうが焼き」の夕飯は始まる。
・・・・・つづく。
藤宮史 (フジミヤ フヒト)
1964年生まれ 版画家、漫画家
平成17年(2005年)第7回アックスマンガ新人賞を受賞する。また第12回、13回、17回の文化庁メディア芸術祭において審査委員会推薦作品に選出される。1999年から2002年の三年間、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の助手をつとめる。