藤宮史の二番煎じなアートな気分

手軽で笑える現代美術的なことをやって、不定期に掲載します。

第10回 版画生活

 

                  はじめに

 ここ15年ほどの私の創作活動は、猫の木版画制作や木版漫画制作がおもな仕事になっていた。しかし、これからは現代美術的な匂いのする「藤宮史の二番煎じなアートな気分」もときどきやりながら版画制作もやってゆきたいと思う。

                ✤✤✤ 今回の提案 ✤✤✤

 今回は、アカデミックな版画づくりを提案してゆきたい。しかし、モチーフになるものは、薔薇の花や猫、美しい山河、美しい婦人像などではなく、日常生活でよく目にするもの、ありふれたものを作ってゆく。版画生活というタイトルにしたが、生活版画でもよかった。どちらかと云うと、日頃生活していて使っているものを版画にすると云うことで、生活版画のほうが気分として近い。また、技法としては、銅版のエッチング、ドライポイント、木版の板目版木をおもに使う。(今回の掲載する版画は過去30年間につくられたものです)

  ■実際につくってみた

 これは、私が阿佐ヶ谷の三畳ひと間のアパートに住んでいたときに作った単色木版画である。絵のモチーフは、その三畳間の窓から見える、路地を挟んで建つ同じような造りのアパートの、ところどころ錆びた雨戸に印刷されていたもので、その雨戸はただ塗装もないトタン板で造られ、トタン板の製作会社のトレードマークが雑で荒っぽいステンシル印刷でつけられていた。

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制作当時は、薄い青色の陶器を包む緩衝材の紙であったが、ご覧のとおり今は色褪せている。木版画で象と数字、英字を墨で刷ってある。

 

 次は、いわしの油漬け缶詰の包装紙である。刷りの工程がたいへんで、1枚だけ刷って終わりにしてしまった。

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RED ROSEという缶詰らしい。木版多色刷り(3版)に銅版(エッチング)でつくってある。

 

 そして、粉薬の袋である。薬は、このとおり青色のもので、ビニールの小さな袋にパックされていた。この版画は、銅版(エッチング)で2版、木版で2版、計4版で作られている。

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 ▲23歳のとき、胃腸病を患って処方された薬である。

 

 また、こんな物も作った。これは切手シートを模した銅版画(エッチング)である。木版も併用している。「藝術雜誌發行」「創始十周年記念」と篆書で書かれてある。

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 ▲1銭5厘の切手を模している。

 

 19歳頃は、バーコードにこだわっていた。銅版技術が未熟で、製版も印刷も思いどおりにはいっていない。しかし、気持ちはこもっていた。

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 ▲版画作品の一部分である。

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こちらも、版画作品の一部分である。リプトンの紅茶のバーコードを参考にしている。

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強い腐蝕で版のふちが削れている。

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こちらも銅版画(エッチング)である。

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透明水彩絵具をつかい木版で刷ってある。

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エッチングで製版した銅版をつかいエンボスと鉛筆でバーコードを表現している。

 

 30年ほどまえ、雑誌に掲載されていたホテルの壁紙の模様を木口木版でつくってみた。不透明水彩絵具使用なので印刷がうまくゆかず不鮮明である。

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版を彫るのにビュラン(西洋彫刻刀)で2週間かかった。

 

  また、これは布地の柄を模写したもので銅版(エッチング)で印刷してある。

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ふたつの布柄のイメージを組み合わせてつくっている。

 

 それから、新聞の天気図にこだわっていたときがあった。

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エッチングの味わいを気にしながら絵をつくっている。

 

また、版画ではないが、こんなものを作ってみた。木彫にニスが塗ってある。

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今では白熱電球は旧時代的であるが、昔はこれしかなかった。

 生活の、日用品に目をむけてみると、思いがけず美しいと感じることがある。それらの、そのときどきを版画に定着してみた。

 

 

藤宮史 (フジミヤ フヒト)

1964年生まれ 版画家、漫画家

 平成17年(2005年)第7回アックスマンガ新人賞を受賞する。また第12回、13回、17回の文化庁メディア芸術祭において審査委員会推薦作品に選出される。1999年から2002年の三年間、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の助手をつとめる。