第11回 極私的新聞
はじめに
ここ15年ほどの私の創作活動は、猫の木版画制作や木版漫画制作がおもな仕事になっていた。しかし、これからは現代美術的な匂いのする「藤宮史の二番煎じなアートな気分」もときどきやりながら版画制作もやってゆきたいと思う。
✤✤✤ 今回の提案 ✤✤✤
今回は、個人もしくは、その周辺で起きた瑣末な出来事を新聞記事として取りあげ、新聞として印刷、刊行するもので、出来あがり次第希望者にはもれなく郵送する。(82円切手同封の方のみ) もっとも、新聞といっても個人が発行するものなので、不定期刊行、記事が古くなるのは致し方ない。しかし、インターネットで手軽に個人的なブログが流行っている今日であるからこそ、紙に印刷して、わざわざ個人宅のポストに頼まれもせぬのに配達することに意味が発生するのか、どうかというところである。
■実際につくってみる
B4サイズのコピー紙を用意して、新聞の版下をつくる。私の場合、いろいろな事情でパソコンで版下を作らずに、文章をプリンターで印刷して、それを切り貼りして版下を作ってゆく。版下がB4サイズなのは、リソグラフ簡易印刷機の印刷能力がB4サイズまでなので、安価に作ろうとすると、これが限界である。新聞の体裁のようにつくるので、大手新聞でいうと、途中で紙面が途切れている具合である。新聞名は、私の場合は、名前にしたが、微細な地域名にしたり、アパートの名前にしても面白い。
▲大見出しに「ロト7はずれる !!」としたが、「はずれる」が良くないのでボツ原稿とする。また、「暗雲」もよろしくない。
いろいろ考えたが、大見出しは猫のケンカである。
▲赤猫のケンカの記事に決まったが事件の写真がない。
新聞掲載予定の写真画像は、再現写真のため、猫の絵を段ボール紙に描いて作った。
▲原寸大に猫の模型を作って、庭の地面に設置して撮影する。
▲こんな感じの事件写真になる。
それから、新聞に載せる広告をつくる。私の近著「蜘蛛の糸」芥川龍之介 原作の木版漫画の冊子(私家版)の広告である。木版画でつくるので、まず、ラフスケッチを描く。
▲広告の寸法を決め、鉛筆で下描きをする。
▲明朝体のような文字をフリーハンドで書き、ペンで清書する。
▲トレーシングペーパーにペンで描き写し、反転。その反転した物のあいだにカーボン紙をはさみ、トレーシングペーパーの上から、またペンで描く。
すると、ご覧のような版木ができる。
▲版木には反転した画像が転写されている。これを彫刻刀で彫ってゆく。
朴(ほう)の版木はやわらかいが、すこし筋がある。彫刻刀でほると、かくかくする。
▲彫ったところからB6の鉛筆で描いてゆく。
▲ここまで彫るのに1時間ぐらいかかる。
▲だんだん木版画の雰囲気が出てきた。
▲最後の山場、名前彫りである。一番ちいさな文字なので難しい。
▲名前彫りは、拡大鏡をつかって彫った。ここ迄で2時間かかった。すべて彫るのに、計4時間はかかっている。
製版が終ったら、次は印刷である。バレンをつかって手摺りをする。
▲インクを刷毛でのせる。
▲手漉きの和紙に摺った。この原画を縮小、若干の修正を加えて版下原稿をつくる。
▲版画を複写して版下原稿に貼る。
【おしらせ】木版漫画「蜘蛛の糸」の広告木版画を販売いたします。
▲木版、手彩色。ペーパーサイズ 約165×242㎜、サイン、落款入り。複数枚販売しますので、版画の刷り具合、手彩色の色合いが若干ちがいますが、ご了承ください。
〔特別頒価〕2500円(送料込み)
・・・・・・新聞づくりは、まだまだかなり長く、つづく。
藤宮史 (フジミヤ フヒト)
1964年生まれ 版画家、漫画家
平成17年(2005年)第7回アックスマンガ新人賞を受賞する。また第12回、13回、17回の文化庁メディア芸術祭において審査委員会推薦作品に選出される。1999年から2002年の三年間、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の助手をつとめる。