第4回 Xファイル・アート
はじめに
ここ15年ほどの私の創作活動は、猫の木版画制作や木版漫画制作がおもな仕事になっていた。しかし、これからは現代美術的な匂いのする「藤宮史の二番煎じなアートな気分」もときどきやりながら版画制作もやってゆきたいと思う。
✤✤✤ 今回の提案 ✤✤✤
このXファイル・アートとは、第三者(鑑賞者)にたいし小規模な擬似超常現象を起し、不思議感覚と滑稽感をつくりだしてゆくものである。これはアート(美術)の守備範囲から若干はずれる感じもするが、アートの歴史にたいする果敢な挑戦であるとしたい。
ミステリー・サークルの起源はさだかに知らないが、UFOが描いた、宇宙人が描いた、竜巻等の自然現象説などあるが、人為的なものであれば人間の不思議(ミステリー)な精神活動のひとつと考えたい。この意味不明で不思議な気持ちを起させる作品を、よくニュースなどで見かけるが、それより1000分の1、100分の1のサイズに縮小して公園の地面に書いてゆきたい。
■実際につくってみる
まず、サークルの円を描くために廃材を利用してコンパスを制作する。
▲手回しドリルをつかい穴をあける。
▲まっすぐに穴をあけるのが難しい。
▲穴にボルトとナットをつけてコンパスのつなぎ目を固定する。
▲コンパスの端に釘で針をつくる。
▲完成である。
今回も公園に行き、表現活動をしてみる。
▲今日は天気がよく、午後2時頃の公園内はたくさんの人たちで賑わっていた。
▲小さい円を描いてみる。
▲円をいくつも重ねて描いてゆく。
▲小さいながらも、それらしいサークルが出来てゆく。
▲突如、公園内の運動場の地面にミステリー・サークルが出現した。
これを見た者は、きっと擬似超常現象を目撃したと思うだろう。
S.L.W・アート
S.L.W・アートとは、Strange Language Work・Artのことで、邦訳すると、未知の言葉の芸術となる。なんだか怪しい英語であるが、作者の設定では、異星人か異次元の世界の住人が落としていった紙片と云うことで、しかし、異星人の落し物にしてはコピーした小さなレシートぐらいの紙片では説得力も何もないが、簡単に作れ、費用もあまり掛らないと云う制約のなかでは仕方あるまい。ほんとうは地球外の、未知の金属の板に文字を刻みたいところだが。
■実際につくってみる
未知の言葉(文字)をゴム印で60種類ほど作り、長文の紙片を、もしくは書物のようなものをと考えていたが、手元にてごろな材料がないので、あり合せの方眼紙に鉛筆で書いてゆく。
まず、文字の設定をする。
▲とりあえず暗号のような文字をつくる。日本語で書くので、アイウエオである。
▲紙片に載せる文章を決める。創世記、第1章の冒頭部分である。簡単につくれると思っていたが、案外文字をひとつずつひろって日本語から未知の文字に訳してゆくのが面倒である。
方眼紙で文字をつくるため、9つの桝目の制限をつくり、それぞれを黒く埋めてゆく。
▲文字づくりはも楽しいと云うよりも苦しい作業である。この画像は9つの文字が書かれている。
▲「1ハジメニカミガテ」と書いてある。
▲これが手描きの原画である。全部で146字である。鉛筆で下書きして、油性マジックインキで塗り、0.5ミリのジェルペンで修正してゆく。
無意味で、遣り甲斐のない行為はどこまで耐えられるか、をやっている気がしてくる。
▲コンビニのコピー機で縮小コピーをとり、その画像をパソコンに取り込んで加工し、版下をつくる。
▲奇妙なものがたくさん出来あがった。
▲異世界の紙片である。紙片の寸法は約100×60㎜。
■実際にやってみる
せっかく作ったものだから、人々に見せたい。共感してもらいたい。しかし、見せ方が問題である。直接、人に会って、はい、と渡しても面白くないので、
電車に乗って、座席シートの上に落としました、としたい。たくさん落とすと叱られそうなので、一枚ずつ場所をかえて落としてゆく。
▲ひらりと、一枚だけ落ちている。
また、電話ボックスのなかにも・・・・・。
▲いっとき流行ったビラチラシのようにである。
▲コインランドリーのテーブルの上にも。
▲それから、道路にも。
この紙片をひろった人は、これを何と思うだろうか。何かの、業務用のバーコードの類いかと思うだろうか。・・・・・・それとも、なんと思うのだろう。ひろった人が「?」と思ってくれたら成功である。ちょっとでも未知の物、不可解なものと思ってもらえたら、ひとつのXファイル・アートの成立である。
この世には、理解を超えた出来事がある。これは、杉並区のある路上で、私が遭遇した現象の一部始終である。
▲天気の良い午後、散歩をしていると、目のまえが、急に明るく、まぶしくなって、
▲思わず、スマホで撮影をした。
▲まぶしい光のあとに、軋んだ音と焦げたような匂いがして、
▲前方の建物がゆがんだように見えてきて、
▲身の危険を感じて、あとずさりしていると、
▲空間が波紋のようになって、
▲ぶっあん、と膨らんだあと、
▲もとの景色に戻った。
私は、おそる恐る散歩を続けた。(これは、勿論創作です。)
✤
また、別の日に、阿佐ヶ谷を歩いていると、
▲「キィーン」という金属音がして、
▲急にあたりが暗くなり、
▲突然、風景が三角形に「ピキッ」と割れて、
▲三角のかどが、光り輝き、
▲風景が「ズルッ」と出てきた。
▲ところてんのように「うにゅん」と流れて、
▲流れて・・・
▲道路に「ビタン」と落ちた。
藤宮史 (フジミヤ フヒト)
1964年生まれ 版画家、漫画家
平成17年(2005年)第7回アックスマンガ新人賞を受賞する。また第12回、13回、17回の文化庁メディア芸術祭において審査委員会推薦作品に選出される。1999年から2002年の三年間、漫画家の永島慎二氏の銅版画制作の助手をつとめる。